GUMKA工房記

GUMKAミニチュアの備忘録を兼ねた日常記です。

彼岸のコーラ

学生時代「べーやん」という友人がいた。
名字が阿部で、ベーやん、なのだが、
時代的に先行量産型オタクな人で、
仕送り大学生のくせに、ろくにバイトもせず、
学校にも来ず、都内の古本屋巡りをしては、
古い漫画本を買い集めていた。

いつも金がなくて貧乏なくせに、コーラが大好きで、
月末になると、少しでも長く飲めるよう、買ったら、
必ず水で薄めて増量していた。

当時、缶コーラは250ml、ガラス大瓶は1リットルだったが、
彼の説だと、缶なら350~400ml、大瓶は1,5リットルまで、
薄めてもコーラの味がギリギリ楽しめると主張していた。
一度、分けて飲ませてもらったが、当然、薄かった。

後に350ml缶コーラ、1,5リットルのペットボトルが登場したとき、

「俺の説が正しさをメーカー自らが証明した!」

と言い回っていたが、別にメーカーは薄めて、
その容量にしたわけでないので、とんだ勘違いである。

そんな彼が「彼岸のコーラ」と呼ぶ飲み物がある。

それは仕送りも尽き、数日間を無一文で過ごさねばならないのに、
運悪く、風邪をひいたときの話。

熱と空腹で意識が朦朧とする中、コーラが飲みたい、
と猛烈に思うものの、金もなければ、身体も動かない。
這うように台所に行き、代わりに飲めるものはないか?
と捜したところ、似たような色の物があったので、
ぐっと飲んでみた。塩味の向こうに、微かに甘味があった。

「こ、これは?!」 

どうも塩味の遙か彼方でコーラの味がする。
おお、これぞ、まさに彼岸のコーラだ!

遠く彼方にある甘さを求め、ぐびぐび行き、後で猛烈に喉が渇いたそう。
勘の鋭い方はおわかりだと思うが、彼の飲んだのは醤油である。

健康になってから、あのときの彼岸のコーラを味わいたい(意味不明)と、
何度も醤油をラッパ飲みしたが、コーラの味はしない。

私を含む友人から、嘘つき呼ばわりされ、あれは幻だったのか?
と本人も自問していた。

夏休みで故郷に帰省していた、ある日、暇なので、
イワナを釣りに行こうと思い、
父親のバイクを納屋から引っ張り出して出掛けた。

ところが目的地直前で、運悪くバイクが故障。
仕方ないので、炎天下、押し歩きながら、
慣れぬ土地でバイク屋を捜したが、
田舎なので、なかなかない。
道を聞こうにも、すれ違う人も車もいない。

滝のように汗は流れ、頭がクラクラする。そのとき気付いた。

「今、醤油をラッパ飲みすれば、彼岸のコーラの味がするのでは?」

運良く(?)釣った魚の料理に使おうと、リュックに醤油が入っている。
道路端にへたり込み、今だ、今しかない、彼岸のコーラだ!
醤油を一気に飲む。うう、塩辛い、しかし、この彼方にコーラの味が……







しなかった… ( ノД`)・゚・。




脱水&熱中症の身体は、高塩分の液体に耐えられず、
飲んだ醤油を噴水のように吐き、ぶっ倒れたそうである。

最後に合ったのは20年前だが、それでも彼岸のコーラを信じていた。
その後も、意識が朦朧としたとき、醤油飲んでたら、
きっと今頃、高血圧だと思う。